120年の時を越え、未来を拓く「月寒あんぱん」

北海道の歴史を刻む、素朴で力強いアイデンティティ
札幌の街角で、明治から令和まで、120年もの間愛され続けてきたお菓子があります。株式会社ほんまの「月寒(つきさむ)あんぱん」です。その誕生は1906年(明治39年)、北海道の開拓がまだ始まった頃にまで遡ります。
会社名:株式会社ほんま
設立年:1906
WEBサイト:https://www.e-honma.co.jp/
駐屯地から生まれた、開拓期のエネルギー
月寒あんぱんのルーツは、かつてこの地に置かれていた陸軍歩兵第25連隊の駐屯地にあります。当時の連隊長と仙台出身の菓子職人が、銀座で流行していた「桜あんぱん」をモデルに、北海道独自の新しいお菓子を作ろうと試行錯誤したのが始まりです。
当時は手作りゆえに一軒の店では数千人の兵士たちの需要を賄いきれず、複数のパン屋が協力しながらこの味を守り育ててきました。現在は5代目となる本間氏がそのバトンを受け継いでいますが、創業時から変わらず、砂糖、小麦、小豆といった北海道の広大な大地で育まれたシンプルな原材料を使い続けていることが、このプロダクトの純粋なアイデンティティとなっています。


「保存食」としての知恵が、世界の扉を開く
月寒あんぱんが100年以上のロングセラーとなった理由の一つに、その驚異的な「日持ち」があります。冷蔵・冷凍技術もなく、物流も未発達だった時代、いかにして美味しさを長く保つかは切実な課題でした。先代たちは水飴の配合を工夫し、高温でしっかり焼き上げることで、保存性を高める独自の製法を確立しました。
「かつての知恵が、今になって海外輸出という新たな局面で最大の武器になっています」と本間氏は語ります。最新の包装技術と組み合わせることで、現在は常温で360日の賞味期限を実現。この「常温で長期保存が可能」という条件は、海外商談において最も重要な鍵となっており、現在、和菓子ブームや健康志向の高まりを背景に、アジアや欧米諸国への進出が加速しています。

健康志向という、新しい価値の発見
面白いことに、120年前から変えていない製法が、現代の消費者によって新たな価値を見出されています。近年では、油脂分が少なく、小豆由来のポリフェノールを含み、腹持ちが良いことから「アスリートの補食」や「健康的な間食」としてのニーズが急増しているのです。「私たちは味を変えていませんが、お客様の捉え方が変わってきました」。
かつては「甘いおやつ」の代表だった月寒あんぱんは、今や「シンプルで安心なエネルギー源」として再評価されています。この普遍的なシンプルさこそが、トレンドが激しく移り変わる現代において、世代や国籍を問わず人々の心を捉える理由なのかもしれません。


「懐かしい」を越えて、日常の喜びへ
本間氏には一つの悩みがあります。地元の人々に「懐かしいね」と言われることです。それは過去の思い出の中に生きていることを意味するからです。「懐かしいと言われる回数を減らし、いつも食べていますと言われる存在でありたい」。
そのために、パッケージデザインの刷新やプロモーションの工夫を続け、先入観を持たない若い世代や海外の顧客へと、新しい月寒あんぱんの姿を提示し続けています。北海道の歴史と共に歩んできた誇りを胸に、素材への誠実さを失わず、世界中の食卓に変わらない安心と小さな喜びを届ける。120年目の伝統は、今、新しい物語として世界へ向けて紡がれ始めています。
