OUR BEST FOODS from Sapporo

誠実な「引き算」が紡ぐ、北海道の深い旨味。

料理屋の矜持を袋に閉じ込める、「頑固な」挑戦

北海道・函館。異国情緒漂う港町に拠点を置く「タカハシ食品」の工場では、今日も小さな釜が直火で焚き上げられています。創業から41期目を迎える同社のものづくりは、現代の効率化優先の食品製造とは一線を画す、驚くほど実直で手間のかかる工程の連続です。

会社名:有限会社タカハシ食品
設立年:1985
WEBサイト:https://www.yamakyu-takahashi.co.jp/

「付け足し」で育てる、秘伝の味わい

代表の高橋誠氏が貫くのは、余計なものを一切加えない「引き算」の哲学です。使用する調味料は砂糖、醤油、みりんの3点のみ。アミノ酸等の添加物は一切使用しません。
「アミノ酸を使えば味は簡単に整いますが、それではどこも同じような味になってしまう」と高橋氏は語ります。タカハシ食品では、創業以来、調味料を「継ぎ足し」て使い続けることで、素材の旨味が蓄積された独自のタレを育ててきました。ニシンの甘露煮を作れば、ニシンの脂と旨味がタレに溶け込み、ホタテを煮れば、その濃厚なエキスがまた深みを加える。この長い歳月をかけて凝縮された「天然の旨味」こそが、同社の味の核心です。
しかし、ただ古いものを使うだけではありません。味の鮮度と「切れ」を保つため、定期的に古いタレの一部を新しい調味料と入れ替える細やかな調整を行っています。この伝統とフレッシュさの絶妙なバランスが、素材本来の持ち味を最大限に引き出すのです。

小さな釜に宿る、職人の精神

同社の製造風景は、工場というよりも「大きな厨房」に近いものです。使用するのは大人が抱えられるほどの小さな釜で、一度に仕込める量はわずか10kg程度です。
「私たちは、料理屋さんと全く同じやり方でものづくりをしています」。すべての素材を一度湯がいて「アク出し」を行い、このひと手間を惜しまないことで、缶詰やレトルト特有の雑味や生臭さを徹底的に排除します。直火でじっくりと素材と対話するように炊き上げる――この小規模生産だからこそ可能な繊細なコントロールが、煮崩れのない美しい仕上がりと、心に深く染み入るような味わいを生み出しています。

海の変化に寄り添い、山と手を携える

北海道の海は、この20年で劇的な変化を遂げました。一時期は姿を消したニシンが戻り、かつての主力だったイカに代わってブリやフグが北上しています。タカハシ食品は、こうした自然の変動を柔軟に受け入れ、仕入れの質にこだわり続けています。
現在は、主力であるニシンの甘露煮やホタテの時雨煮に加え、北海道産の農産物を組み合わせた「海と山のコラボレーション」にも注力しています。大豆と昆布、あるいは椎茸の旨煮。素材が変わっても、ベースとなる3つの調味料だけで勝負する姿勢は変わりません。それは、北海道の大地と海が持つポテンシャルへの、揺るぎない信頼の証でもあります。

スペインへ、そして世界の「日常食」へ

タカハシ食品の挑戦は、今、海を越えてヨーロッパへと広がっています。今年の春からは、スペインの工場での現地生産を本格的に稼働させる予定です。現地のシェフから「この味を変えないでくれ」と高く評価されたその背景には、欧米市場での和食に対する認識の変化があります。
「寿司や天ぷらといった『ごちそう』だけでなく、日本人が毎日食べている日常食としてのつくだ煮を広めたい」。お米にはもちろん、意外にもパンやチーズとも相性の良いつくだ煮。高橋氏が見据えるのは、和食の華やかな側面ではなく、日本の生活文化に根ざした「本物の日常の味」を世界のスタンダードにすることです。